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不動産投資において、最も重要な指標の一つとされるのが「利回り」です。数字として分かりやすく、複数の物件の収益率を直接的に比較できることから、とても使い勝手のよい数字として流通しています。
しかしながら、分かりやすいがために利回りだけに踊らされて投資判断を誤る不動産投資家も少なくありません。見た目の利回りが高いからと言って、そのまま自分が運用したときの収益性の高さにつながるわけではないのです。今回は、利回りの計算方法を丁寧に見ていくとともに、利回りを冷静に見極めるための注意点についてもご説明します。
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目次
利回りの計算方法の前に、そもそも不動産投資における利回りとは何なのか、なぜ重要視されるのかをお伝えしておきます。
利回りとは、支出(投資金額)に対して得られた収益の割合を表した数字です。計算方法が分かりやすくて意味が明確であるため、広く投資効率を判断するときの指標として活用されています。不動産の場合は、投資額に対する家賃収入の割合として計算されるケースが多いです。ただし経費を加味するかどうかで変わってくるため、利回りにはいくつかの種類がありますので、詳細は後述します。
不動産投資に限らず、株式や債券、投資信託などの金融商品の収益性の指標にもなっています。また確定拠出年金やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)など、年金の運用の際にも用いられます。他にも事業に対する投資効率の確認など、利回りはビジネスでも一般的に使われています。
投資用の不動産を購入する際には、その不動産から生み出される収益が大きな判断基準の一つとなります。初めて不動産投資に乗り出す人なら、なおさら利回りが低い=儲からない不動産を購入したくはないでしょう。収支計画の策定にも利回りが用いられます。だからこそ、不動産投資において利回りはきわめて重要な指標として挙げられるわけです。
ただし、利回りとリスクは比例する傾向にあります。利回りの高い不動産ほど収益性は高い一方で、リスクも大きいということです。そのため、利回り10%の物件と利回り12%の物件を比較した場合に、常に利回り12%の物件を買うべきであるということにはなりません。
利回りは投資判断を下す重要な根拠である一方で、利回りだけで判断してはいけません。物件の築年数(老朽化の進行度)や周辺環境、過去の運用実績など複数の情報を付き合わせて、総合的に判断を下すべきです。こちらについても、利回りの計算方法をご説明した後で詳しくお伝えします。
利回りには3種類あることと、それぞれ計算方法が異なることを理解しましょう。特に、不動産投資家の目に触れる物件情報に記載される「利回り」はどの利回りを指すのか、冷静に判断できるようになることが必要です。
表面利回りは年間の賃料の合計を不動産購入費用で割った数値であり、具体的な計算方法は以下の通りとなっています。
表面利回り=年間の収入合計÷購入価格 |
かかるコストとして購入価格(初期費用)しか想定されておらず、運営していくに当たって必要となる管理費や税金、外注費などのランニングコスト(継続費用)が考慮されていません。実際に不動産経営を始めてから手元に入る収入の実態よりは高めに計算されるからこそ、「表面」なのです。
物件の収益力を大まかに把握するのには便利であるため、世間に出回る物件情報では表面利回りを記載するケースが少なくありません。実際よりも高い利率が出ることから、注意が必要です。また、物件購入時の値であり、周辺環境の変化や物件の劣化などの事情によって利回りが変わっていく可能性も頭に入れておきましょう。
不動産投資をする立場としては、次の実質利回りや想定利回りなど、より実態に近い数字の算出を怠ってはいけません。
実質利回りは、その名の通り表面利回りよりも正確な物件の収益力を表すとされています。年間の賃料の合計から税金や手数料などの必要経費を差し引いた金額を、不動産購入費用で割った数値です。つまり計算方法は以下の通りとなります。
実質利回り=(年間の収入合計-年間支出)÷購入価格 |
また税金としては土地・建物にかかる固定資産税・都市計画税、収益に対する事業税、賃貸物件の取得時に支払う不動産取得税や登録免許税、その他印紙税などがあります。
表面利回りに比べて計算が複雑になりますが、その分実態に近い数字が出やすいです。興味を持った物件に対しては、必ず表面利回りを求めるようにしましょう。
想定利回りとは、満室を想定したときの年間収入額を不動産購入費用で割った数値です。計算方法は以下の通りです。
想定利回り=満室時の年間の収入額÷購入価格 |
満室時の最高収入額を基準にしていますから、想定利回りは表面利回りや実質利回りに比べて高く出やすいです。物件情報における利回りとして、この想定利回りを記載していることも多いです。同じマンションやアパートの中でも、日当たりや階によって家賃は異なるものですが、想定利回りに使われる数字は最高家賃のケースが大半です。
実際に不動産経営を始めると、常に満室というわけにはいきません。資料として提示された「利回り」が想定利回りであることも念頭に、ある程度の空室率を見込んで実質利回りを計算するように心がけましょう。
高利回りが必ずしもよい物件であるとは限りませんが、それでもやはり手元に残る収入は増やしたいものです。それでは、実際に収入の見込める高利回り物件を見つけるにはどう考えればよいのでしょうか。
繰り返しになりますが、利回りだけで投資判断を下すのはよくありません。利回りの高い物件の中には、買い手がつかないために価格を下げて、利回りを高く見せているケースがあります。
物件情報を踏まえて総合的に判断をしないと、高リスク物件を「高利回りだから」との理由だけで購入してしまうことになります。たとえば、価格の安い物件の多くは築年数が古く、大規模なリフォームを必要とする可能性があります。そのため購入費用が安いように見えても、賃貸物件として貸し出すまでには多額の修繕費用がかかります。この修繕費用を考慮すれば、実質利回りは大きく下がることは容易に想像できるでしょう。
こうした物件を避けるために、まずは利回りの相場を知ることが大切です。相場から見て異常に高い利回りの物件を見つけても、慎重に情報収集を進めるようにしてください。特に、長期的に空室となっている部屋がないか確認しましょう。空室リスクの高い物件なのかもしれません。
利回りの高い・低いを判断するためには、予め相場を把握しておく必要があります。
● 不動産投資ポータルサイト「健美家」による2021年8月の物件概況
参考:「収益物件市場動向 マンスリーレポート」不動産投資と収益物件の情報サイト 健美家
● 日本不動産研究所による「第44回不動産投資家調査(2021年4月時点)」の結果:賃貸住宅一棟(ワンルームタイプ)
参考:「第41回不動産投資家調査(2021年4月時点)」日本不動産研究所
株式投資の平均利回りは1.64%(日本証券取引所「株式平均利回り(2021年9月)」より)ですので、上記図中の不動産投資平均利回りの最低数値と比べても、
不動産投資の利回りは高いといえるのではないでしょうか。
リスクの高い高利回り物件を避けたければ、自分一人で判断せずプロに相談することをおすすめします。
不動産取引は買い手と売り手の一対一で行うことが多く、より良い条件の物件を見つけるには社会に出回っていないリアルな情報が必要です。書籍やインターネットを通じた情報収集だけでは、不動産投資で成功するのに十分な情報は入りにくいと考えてください。
いきなりプロに一対一で話を聞くのは気が引けるという方は、不動産会社が頻繁に開催する不動産投資セミナーへ参加するとよいでしょう。周りに自分と同じような投資家がいますから、より気軽にプロから話を聞くことができます。
自分が不動産投資を続けるに当たって不安な点や分からないことを専門家に相談できるのはもちろん、市場には出回らないようなお得情報、優良物件などを紹介してもらえる可能性もあります。専門家や不動産会社とのつながりを作ることは、不動産投資の成功のために大切なポイントです。
投資全般においても言えますが、高い利回りが期待できる投資には、それなりのリスクがつきものです。
高利回りであるからといって安易に物件を購入してしまうと、空室が続いてしまったり、数百万円以上の大規模修繕が発生したりする危険性があるので注意が必要です。
下記のチェックポイント一覧表を確認のうえ、問い合わせをするようにしてください。
チェックポイント | 起こりうるリスク | 確認方法 |
□設備が極端に古くないか 浄化槽や受水槽はメンテナンスされているか |
不人気設備のため空室を埋めにくい 物件購入後設備の交換費用がかかる |
設備情報を確認する 実際に現地を見て確認する 設備のメンテナンス履歴を仲介業者に確認する |
□建物の状態が劣悪ではないか 修繕を長期間怠っていないか 外壁にヒビやタイルの剥がれが起こっていないか シロアリの発生はないか 漏水が起きた履歴はないか |
多額の修繕費用がかかる | 実際に現地を見て確認する 建物状態を仲介業者に確認する |
□告知事項はないか 自然死、自殺、他殺は起きていないか |
入居付けに苦戦する | 大島てるを確認する 告知事項がないか仲介業者に確認する |
□再建築可能か 接道要件は満たしているか 用途地域に問題ないか |
そもそも物件を購入する際に融資が下りない 出口戦略の際に買主に融資がつかず売却に苦戦する |
実際に現地を見に行き、接道幅を測る 役所に問い合わせる |
□違法建築ではないか 当初計画した建物と異なる状態のものが建っていないか 廊下に幅員不足がないか 建蔽率・容積率オーバーではないか |
そもそも物件を購入する際に融資が下りない 出口戦略の際に買主に融資がつかず売却に苦戦する |
建築計画概要書・謄本・現況を比較する 建築士に調査を依頼する 役所に問い合わせる |
□入居状況に問題はないか 入居時審査の基準に即して入居させているか 入居者の属性に問題はないか |
物件購入後退居が出た場合に当初の賃料で入居が決まらない 外国人の場合、言葉が通じない・生活慣習が異なるためトラブルの可能性がある |
仲介業者に確認する 賃貸契約書を見せてもらう |
尚、「買い」のポイントとしては、
・売主が売り急ぐ事情があり価格を割安にしている場合
・値付けが相場よりも安い場合
は高利回りで「買い」の物件です。
しかしながら、高利回りで「買い」の物件は不動産業者が市場に出回り次第すぐに購入してしまいますので、一般人が手に入れるのは非常に難しいことだと言えます。
利回りは不動産の投資価値を判断するのに最も便利な指標と言えます。物件情報にも記載されており目にする機会も多いのですが、その算出根拠には注意する必要があります。表面利回りなのか想定利回りなのか、それとも実質利回りなのかによって、数字の信頼性は変わってくるためです。
今回お伝えした利回りの計算方法や判断のポイントなどを頭に入れて、セミナーに参加して情報収集をするようにしてください。専門家とのつながりを作り、複数の情報を基に判断する癖をつけられたら、不動産投資で成功する確率は大きく高まったと言えるでしょう。
J.P.Returns株式会社
執行役員 コンサルティング3部 本部長
J.P.RETURNS執行役員。
J.P.RETURNSに入社後、設立初期より営業部を統括、本部長を務める。以降融資担当部長、流通事業部では仕入れ先開拓業務に従事、後に管理業務部等を歴任。数百戸の投資用区分マンションを販売、自身でも6件の不動産を所有、運用している。現在は自社セミナーを始め、様々な会社との協賛セミナーの講師を務めながら、常に世に発信する立場で不動産業に従事している。
【書籍】
日本で最も利回りの低い不動産を持て!
マンション投資2.0
【ブログ】
室田雄飛のモグモグ不動産投資ブログ
大学在学中に家庭教師のアルバイトをきっかけにデイトレーダーへ転身。24歳で資産運用法人を設立する。25歳から大手投資用マンションディベロッパーと業務提携後、およそ6年間にわたり資産運用アドバイザーとして活躍。その後、大手不動産仕入れ会社で販売統括責任者として従来の投資用物件の流通システムを革新するプロジェクトを立ち上げる。国内最大規模の投資イベント「資産運用EXPO」で登壇実績があり、同業他社からも多くの見学者が立ち見の列を作った。2020年にJ.P.RETURNSに参画。オンラインでの商談やWEBセミナーを導入し、コロナ禍でも年間300件以上の顧客相談を担当している。
【保有資格】
宅地建物取引士、ファイナンシャル・プランナー(AFP)